ストレスを受けると細胞もダメージを受ける

ダメージ

ダメージ


ここまで、脳の視床下部でストレスが認知されることによって、自律神経にどのような影響が出るのかを見てきました。ここからは、脳の視床下部から始まるもう1つのストレス経路、ホルモンのバランスについて見ていきます。

脳の視床下部でストレスが認識されると、視床下部はストレスによって体が受けたダメージを回復させるため、同じく脳の「下垂体」と呼ばれる場所に指令を出します。視床下部から指令を受けた下垂体は、ダメージ回復の実働部隊ともいうべき副腎にストレス軽減に役立つホルモンを出すよう指令を出します。

これによって副腎から出るのが、「コルチゾール」というホルモンです。この「視床下部」と「下垂体」と「副腎」の関係は、ちょうど「社長」と「部長」と「部下」の関係に似ています。

社長(視床下部) の命令が部長(下垂体)に行き、部長が部下(副腎) に社長の命令に沿った仕事をするように指令を出す、すると部下が実働部隊として働く、というわけです。

こうした脳から副腎への一連の流れを、それぞれの頭文字をとって「HPAアクセス」といいます。さらにおもしろいのが、部下である副腎(A)からは、社長(H)と部長(P)、それぞれにフィードバック、つまり状況報告が行われるのです。

通常は、ストレスを感じるとコルチゾールの分泌量が増え、ストレスが解消されるとコルナゾール値が正常化します。でも、ストレス状態が長く続き、ずっとコルチゾールを出しつづけていると副腎は疲れ果ててしまいます。そうした副腎のハードな働きぶりは、視床下部と下垂体へ報告(フィードバック) されているので、あまりにも副腎が働きすぎると、「ちょっと休ませなさい」という命令が社長から部長へと行くことになります。

こうなると、ストレスがあるにもかかわらず、コルチゾールが出ないという状態になってしまいます。これが副腎の疲労状態「アドリーナル・ファティーグ」です。

では、このコルチゾールとはどのような働きをするホルモンなのでしょう。じつは、コルチゾールというのは、疲労した細胞を元気にする働きを担っているホルモンなのです。

体は、約60兆個の細胞から構成されています。体がストレスによってダメージを受けるということは、細胞がダメージを受けるということです。

人間の体の60% は水分だといいますが、これはどこかに水分がまとまってたまっているわけではなく、60兆個の細胞それぞれが細胞の60%の水分を抱えているということです。細胞にそれだけの水分を保たせているのは、「マイナス75ミリボルト」という細胞の内側と外側の「電位差」です。

その結果、細胞から水分が失われます。このとき細胞から失われる水分というのは、ただの水ではありません。細胞が活動するの舵必要な養分など、いろいろ大切なものを′含んでいます。そのため、水分が細胞から失われると、細胞自体の活力が低下してしまうのです。

こうした細胞レベルのダメージを回復させることができるのが、「糖(グルコース)」です。そしてコルチゾールは、この糖が細胞に行き渡りやすくなるよう、血糖値をコントロールする働きをもったホルモンなのです。

コルチゾールが増えると血糖値が上がり、コルチゾールが減少する(正常化する)と血糖値は低くなると考えてもらえればかまいません。

コルチゾールが血糖値を上げるのに対し、膵臓から出るインシュリンが血糖値を下げる、と思っている人が多いのですが、この二つの関係は実際にはもう少し複雑です。血糖値が上がったときにインシュリンが出るのは、じつは細胞が血液中の糖分を取り込むためにインシュリンが必要だからなのです。糖尿病というのは、膵臓からインシュリンが出なくなってしまう病気です。糖尿病には、大きく分けて、膵臓の機能自体に問題が生じてインシュリンが出なくⅠ型糖尿病と、膵臓の疲弊によってインシュリンが出なくなるⅡ型糖尿病があります。

Ⅱ型糖尿病は太りすぎの人がなりやすいのですが、糖尿病を放置して症状が悪化すると、決まってみんなやせていきます。これは、血液中に糖がいっぱいある状態なのに、インシュリンが足りないために、細胞が養分を吸収できない状態が続くことが原因です。つまり、インシュリンとコルチゾールは、たんに反対の性質をもっているのではなく、互いに協力しあって細胞に養分を送り込んでいるのです。こうしてコルチゾールとインシュリンの働きによって、細胞が再び元気を取り戻すと、ストレスが消えたという情報が視床下部に行きます。

すると、視床下部から下垂体へ、下垂体から副腎へという流れで、今度は「もうコルチゾールをたくさん出さなくていいよ」という命令が行き、ホルモン分泌が正常な状態に戻るのです。

ちなみに、コルチゾールとインシュリンはいっしょに働くため、ストレス状態が続き、副腎が疲弊するほどコルチゾールを出しているときは、インシュリンを出す膵臓も仕事量が増えるので疲れています。つまり、副腎疲労の状態にある人は、糖尿病リスクも高まっているということです。

たとえ太っていなくても、食べすぎていなくても、ストレスの多い生活をしていると、糖尿病リスクは高くなるということです。